バレエイベントレポート

NEW 2025.7.7 更新

Balletweek イベント取材REPORT

~みらいのバレエ界を担う小中学生を応援する~

『第2回 バレエみらいシート』


 

 バレエイベント

~バレエダンサー本島美和さんが

未来のバレリーナに伝えたいこと~

『第2回 バレエみらいシート』

 

2025.6.21~昼の部~

@新国立劇場

 

 

 株式会社オンワードホールディングスとチャコット株式会社が、公益財団法人新国立劇場運営財団と協働し、みらいのバレエ界を担う小中学生のためのバレエイベントを6月21日(土)に新国立劇場で開催しました。元新国立劇場バレエ団プリンシパルで、現在新国立劇場バレエ研修所のアクティング・ディレクターを務める本島美和さんからバレエの表現のテクニックを直接学べ、その後新国立劇場にてバレエ『不思議の国のアリス』を鑑賞できるという、バレエ好きの子供たちにはたまならないとても贅沢なイベントでした。

 

参加者は小中学生の子供達とその保護者。子供達は「将来の夢」「本島さんに聞いてみたいこと」などをお手紙にして本島さんに送り、応募者の中から7名×2回(昼の部、夜の部)計14名の参加者が本島さんにより選ばれました。

 

◆◆◆ 本島美和さんのワークショップ ◆◆◆

 

当日はまず、リハーサル室にて本島さんによるワークショップからスタートしました。今回はバレエ公演で使う「マイム(台詞の代わりに身振り手振りで表現するジェスチャーのこと)」がテーマ。本島さんにこのテーマを選んだ理由をお伺いしたところ、「最近はコンクールなども盛んで参加する子供たちも増え、一人で踊ることはとても上手です。ただ全幕作品に触れる機会が少なくなっているのではないかと感じでいます。全幕作品では振付以外にも大事な表現がたくさんあり、そういうものに今回気づいて味わってもらいたいと思い、このテーマにしました。」と企画に対する熱い思いを語ってくださいました。

 

ワークショップでは、まずマイムにはどのようなものがあるかというお話から始まり、『眠れる森の美女』のプロローグでリラの精とカラボスのシーンの映像を見ながら、なぜこのような動きをしているのか、なぜ目線はここを向いていたのか、など細かくストーリーの状況と登場人物の心情を本島さんが子供たちに説明し、その動きをする意味を伝えました。その後実際にピアノの生演奏とともにマイムを振り写し、子供たちはリラの精、本島さんはカラボスとなり、実演しました。

  

 

 ワークショップの中で本島さんは、「演じる時に必要なものに、テキスト(=台本、台詞という意味)に対して、サブテキストというものがあります。サブテキストとは、その台詞には書いていない心の中の動きのこと。台詞では言っていないけれど伝えたいことです。バレエにはそもそも台詞がありませんが、同じようにマイムとしての振付以外にも、目線やちょっとした身体の角度で登場人物の心情を伝えているのです。」と、子供たちに教えてくださいました。そして、全幕作品を創り上げる上では、周りに誰がいるのか、どういう状況なのかということまでを考え、周り全体が見えるようなダンサーになってほしいという本島さんの思いを子供たちに伝え、レッスンは終了しました。

 

本島さんにワークショップの感想をお伺いしたところ、「グループ分けをして3回ほど曲で行いましたが、みんなどんどん表現が上手になっていきました!時間が許せばあと30分くらい続けたかったくらいです(笑)!マイムのレッスン後に、全幕作品の舞台を鑑賞できるのもなかなかない機会ですし、舞台を観て、後ほどマイムについての感想を言ってくれたらうれしいですね。舞台の見方も変わってくれたらいいなと願っています!」とお話してくださいました。

 

  

◆◆◆幕間にて…本島さんとのティータイム&個別写真撮影会◆◆◆

 

スペシャルイベントはまだまだ続きます。

ワークショップ終了後は新国立劇場バレエ団による『不思議の国のアリス』を劇場にて鑑賞。7組の参加者のみなさまのお席には特別に作られた巾着袋がシートカバーとしてかけられていました。記念のお土産は今後のレッスンにも役立ちそうでした!

 

幕間の休憩では、特別ラウンジにて本島さんとのティータイム。ジュースやサンドイッチなどの軽食を頂くことができ、子供たちも舞台の感想などを本島さんと楽しくお話しすることができました。

 

今回の参加者は小学校高学年から中学3年生までのバレエを熱心にやっている子供たちでした。ご近所にお住まいの方から、関東地方、さらには東北地方からと遠くからも参加してくださっていました。子供たちは「レッスンは緊張しましたが、とても楽しかったです。分かりやすく、優しく教えてくれました。先生は面白かったです。」と口々にワークショップの印象を教えてくれました。また、「マイムのレッスンは受けたことがないので、とても新鮮でした。自分が体験してみてから舞台を観ると、プロの人のすごさが分かりました。」「マイムについて習ってから舞台を観たら、舞台をより楽しく観ることができました。」「表現の仕方のすばらしさが分かりました。習ったリラの精のマイムとはまた違ったマイムをアリスで確認することもでき、マイムに注目することができました。」という感想もありました。本島さんのワークショップが子供たちの印象に深く残り、また今後のそれぞれの舞台に生かしていけそうで、大変充実した時間を送っていたようでした。

そして、最後は本島さんとのツーショット写真をそれぞれ撮影し、うれしそうな子供たちの笑顔が輝いていました。

 

 

◆◆◆本島さんの未来のダンサーたちへの思い~インタビュー~ ◆◆◆

 

★バレエウィーク(以下BW)★ 今回のこの企画では、多くの子供たちからのお手紙を受け取られたと思いますが、お手紙はいかがでしたか?

 

★本島★ 頂いたお手紙すべてを楽しく読ませていただきました。微笑ましいエピソードもあり、笑いながら読んだものもありました!いろいろな悩みも書いてありましたが、その中で感じたのは、年齢層が上がれば上がるほど夢が現実的になってくる点です。バレリーナにはなれないけれどバレエは好きで、舞台に関わるような他の道を模索しているといったような。年齢的にいろいろな現実に直面する時期なのだろうと思うのですが、真っ直ぐ夢を追える環境を作ってあげたいし、それができないのは大人の責任でもあるのかなと考えさせられた部分もありました。子供たちの生の声を聞くことができた貴重な機会でした。

 

 

★BW★ 今回子供たちにお伝えしていたマイムのワークショップをとても楽しく拝見させて頂きました。サブテキストを意識して演じるお話はとても印象的でしたが、ご自身ではいかがでしたか?

 

★本島★ ただマイムを教えるだけならば、雑誌などにいくらでも載っていると思うのですが、振り付けだけではない心情の伝え方の表現を学んでほしいと思い企画しました。今回は時間がなかったので「サブテキスト」に絞ってお伝えするのみでしたが、本当はもっと掘り下げて、私が研修所時代に演劇の先生から教わった『スタニスラフスキーの9の質問』もやりたいと思っていました。ーー私はだれか、ここはどこか、その人物が本当にやりたいことは何かなど、演じる登場人物を掘り下げていく作業です。例えば、『眠れる森の美女』の宮殿の中と『ジゼル』の森の中ではシャンデリアの明かりなのか、太陽の光なのか、それだけでもだいぶ違います。装置があれば伝わるわけではない、演者が想像力を働かせて表現することはとても大切なことなので。ワークショップの中では時間がなくできなかったのですが、幕間のみなさんとのティータイムの時に少しだけ話すことができました。

 

 

★BW★ 本島さんは主役のみならず、キャラクター性の強いさまざまな役にも取り組まれてこられましたが、このサブテキストへの意識はご自身でもされているのでしょうか?

 

★本島★ そうですね。一つ一つ考えて演じていくと、「不自然さを取り払う」ことができます。また、コール・ド・バレエも主役も経験させていただいてから、キャラクターの強い役を演じるようになったこともあり、そうして舞台全体を見られるようになってきたと思っています。

 

 

★BW★ 現在はご自身もダンサーをやりながら新国立劇場バレエ研修所 アクティング・ディレクターとしてもご活躍されていますが、今後もこれからの若いダンサー、かわいいリトルバレリーナの方たちへの様々な企画などをやられていくのでしょうか?

 

★本島★ 今回企画してきたことに対し、この短い時間の中、こんなにも子供たちは吸収して成長するということを知り、とても楽しかったです。バレエ界の裾の尾を広げるためにも、これからもいろいろと挑戦していきたいと思っています。

 

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◆プロフィール◆ 

新国立劇場バレエ研修所 アクティング・ディレクター

新国立劇場バレエ団 プリンシパル

本島 美和 (Miwa Motojima)

 

東京都出身。

牧阿佐美、三谷恭三、豊川美惠子、ゆうきみほに師事する。

豊川美恵子エコール・ド・バレエ、橘バレヱ学校を経て2000年牧阿佐美バレヱ団に入団、01年に新国立劇場バレエ研修所に第1期生として入所し、03年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。

05年の新制作『カルメン』で初めて主役に抜擢され、『ドン·キホーテ』『ジゼル』『くるみ割り人形』、ビントレー『アラジン』、プティ『こうもり』などで数多くの主役を務め、古典から新作まで幅広いレパートリーを持つ。また、『眠れる森の美女』カラボス、『不思議の国のアリス』ハートの女王など、キャラクターの強い役柄も定評がある。出演したCMでの演技力が評価され、ACC CMフェスティバルの演技賞を受賞。

11年プリンシパルに昇格。

06年橘秋子賞スワン新人賞を受賞。

22年6月新国立劇場バレエ団を退団。

同年9月新国立劇場バレエ研修所主任講師補に就任。

24年4月同所長補佐兼主任講師に就任。

25年4月同アクティング・ディレクター(所長代行)に就任。