バレエ公演レポート

NEW 2025.7.11 更新

~感動の舞台~

バレエ公演REPORT


 

Houston Ballet

Giselle

~スタントン・ウェルチ版 『ジゼル』~

壮麗な舞台美術と充実した舞踊シーンで紡ぐ

愛と裏切り、そして赦しの物語。

 

2025.7.5(土)19時公演

@東京文化会館 大ホール

 

 

 現在、テキサス州最大都市のヒューストンにある、ヒューストン・バレエが来日中。東京上野の東京文化会館にて、7月3日(木)に、『オープニング・ガラ』、5日(土)に『ジゼル』が上演された。ヒューストン・バレエとは、1969年に設立され世界各国から集まった61名のダンサーが所属しているという歴史が長く、アメリカ最大級のダンス専門施設Center for Danceを本拠地とした規模の大きなバレエ団である。2003年からは、オーストラリアの振付家スタントン・ウェルチが芸術監督を務め、古典作品の新制作に意欲的に取り組むと同時に、現代振付家の作品を数多く取り入れ、アメリカ国内でも豊富なレパートリーを抱えるバレエ・カンパニーとして高い評価を得ている。そんなヒューストン・バレエが5日に2度上演したのは、スタントン・ウェルチ版 『ジゼル』、そして日本公演のプリンシパルの一人は日本人の加治屋百合子だ。バレエウィークは、この春独自に公演に向けたインタビューをしているので、是非その時の記事と合わせて読んで頂きたい

 

 まず、東京文化会館ロビーに入ると、そこはいつもの東京文化会館とは雰囲気がガラっと違い、海外のお客様で大変華やかににぎわっていた。海外ゲスト招待公演とはまた違い、ロビーはアメリカの薫りを感じ、バレエ団丸ごとアメリカから来日している空気感がそこかしこに漂っていた。3年ぶりでの2度目の来日公演ということもあり、前回の初公演でのファンも多く駆けつけているのかもしれない。

 

 第1幕は「ルネッサンス期のドイツ、ザクセン公爵の狩猟保護区」でのシーンだ。素朴でありながら、温かみがあるような色使いで表現された村のシーンの舞台美術には細部までこだわりが見られ、ダンサーが出てくる前から、その世界に引き込まれるような仕上がりだ。ジゼル加治屋の登場は、かわいらしい表情に溢れ、元気いっぱいに踊るシーンは、喜びとはにかみいっぱいの少女の姿を客席に披露した。台詞のないバレエだが、表情が大変豊かで、ジゼルの心の中のささやきまでも客席に伝わるような演技が印象深かった。アルブレヒト役はプリンシパルのコナー・ウォルシュ(Connor Walsh)で、貴族の品格を持ち合わせながら、ジゼルとの愛を感じるパ・ド・ドゥや、躍動感ある踊りが観客を魅了した。

 

また、第1幕を彩る華やかなシーンのワルツでは、多くのヒューストン・バレエのダンサーを観ることができ、非常に楽しめる。美しい古典バレエの作品でも、ヒューストン・バレエならではのパワーを感じる踊りだった。男性ダンサーの群舞では、迫力とスピード感も心地よかった。

 

第1幕後半での代表格であるペザント(農民)の踊りは通常のパ・ド・ドゥではなく、男女6名のパ・ド・シスでの構成でより豪華になっていたが、ここでは日本人の活躍が目立った。ソリストのアクリ士門と藤原青依だ。アクリの高いジャンプ力と安定したテクニックは力強さと大きな動きで場を沸かせた。藤原はその手足の長さを生かし、かわいらしさの中にも上品な表現力ある踊りを見せた。

 

また、第1幕に華を添える花嫁のお祝いのシーンで花嫁役を務めたのも日本人のソリスト徳 彩也子だ。徳は非常に高い身体能力と演技力を併せ持つダンサーだ。徳のグランパディシャの高さには圧巻。また、最後のジゼルが息を引き取る時にも舞台全体を悲しみのシーンへ母ベルタとともに引っ張っていく演技に、会場の空気が一気に変わるほどであった。

 

 

スタントンの『ジゼル』のみどころの一つは、ジゼルの信じてきた愛に対する絶望と悲しみに暮れて狂乱するシーンだろう。ここでは、他の『ジゼル』作品ではあまり聞くことのできないオリジナルの楽曲も使われていて、通常の狂乱シーンよりも長く、このジゼルの心の動きを十分に表現できる演出となっていた。加治屋の演技力の高さはこの演出と相まって一層の緊張感高まるシーンを繰り広げた。また、ジゼルが命を引き取る前に、第1幕にも霊であるウィリがサッと現れ、死を連想させて二幕へ誘うスタントンの演出が他にはなく面白い。

 

 第2幕はガラっと印象が変わり、「数か月後、真夜中の森の中」が演じられる。シンプルな木製の十字架には、Giselleと名が刻まれていた。森の舞台セットは奥行き感をとても感じ、どこまでも続く深い森の様子が表現され、素晴らしかった。

 

両袖からウィリたちが静かに登場し、辺り一面真っ暗だった森の中に精霊の白が美しく静かに浮かび上がった第二幕。衣裳のベールは計算しつくされた工夫がされているのだろうか、動きに合わせて羽のように丸く見え、ダンサーの振付に合わせてさらに繊細な雰囲気を舞台にプラスしていた。

 

 

 

ウィリの女王ミルタを演じたのは存在感抜群の踊りでウィリ達を引っ張っていくブリジット・アリソン=クーン(Bridget Allinson-Kuhns)、そしてミルタの2人の侍女(ドゥ・ウィリ)の一人を演じたのは藤原青依で、引き続き加治屋を筆頭に2幕でも日本人ダンサーの活躍が楽しめた。コール・ド・バレエの動きにもテクニカルな1列のフォーメーションなどが入り、舞台全体に大きな動きとウィリたちの思いを表現する工夫が散りばめられていた。

 

加治屋の演じる死後のジゼルは第1幕の悲嘆とは異なり、精霊になってもアルブレヒトに会いたい気持ち、彼を助けたいという優しさを伴う気持ちに変わっていく。その心の流れは、繊細で優しく美しい動きのラインと、アルブレヒトを想うかすかなほほえみに現れているように見えた。二人の愛を感じる情景に満たされたパ・ド・ドゥは真っ暗な森の中に輝きがともるような美しさを放っていた。

  

数多くある『ジゼル』の舞台だが、スタントン版『ジゼル』は、音楽の使い方に始まり役一人一人に対する振付、フォーメーション含む構成などの工夫により、ストーリーがとても分かりやすいように創造されているように感じた。

 

 

7月12日(土)には名古屋での『オープニング ・ガラ』と『ジゼル』の公演が開催される。是非、来日中にヒューストン・バレエが誇る素晴らしい公演を観てほしい。

 

 

 

<写真>

※1枚目 東京文化会館大ホール内ホワイエにて掲示されたダンサーのサイン入り公演ボード。

※舞台写真   提供:光藍社

 

 

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◆◆◆公演情報◆◆◆

2022年の初来日公演で鮮烈な印象を残したヒューストン・バレエが待望の再来日!

ヒューストン・バレエ

『オープニング・ガラ』/『ジゼル』

 

『オープニング・ガラ』

  星屑のように散りばめられた高難度のステップと音楽の融合。スタントン・ウェルチの才華溢れるダンスの銀河! 

  日程 2025年7月10日(木)19:00開演(18:15開場)

  会場 愛知県芸術劇場 大ホール

 

 『ジゼル』

  壮麗な舞台美術と充実した舞踊シーンで紡ぐ愛と裏切り、そして赦しの物語。

 

  日程 2025年7月12日(土)13:00開演(12:15開場)

   会場 愛知県芸術劇場 大ホール

 

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